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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)339号 判決 1968年4月19日

控訴人 株式会社神戸銀行

被控訴人 南蛮食品株式会社破産管財人 若新政光

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の訴えを却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴会社代理人

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴代理人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二、当事者の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否

次に記載するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、ここに引用する。

(事実関係)

一、控訴会社代理人

本案前の主張

(一) 本件根抵当権は、名古屋法務局古沢出張所昭和三九年七月一一日受付第一九、八〇四号根抵当権移転登記の付記登記によつて控訴会社から訴外愛知県信用保証協会(以下訴外協会という)に代位弁済を理由に移転され、現在の権利者は訴外協会である。

本件訴えは、控訴会社が訴外協会へ本件根抵当権を移転した後に提起された。しかし、被控訴人は、訴外協会に対し破産法八三条によつて否認権を行使すべきであつて、控訴会社に対し同法七二条によつて否認権を行使するのは、当事者を誤まつたもので、本件訴えは不適法である。

なお訴外協会に対する否認権の行使は同法八五条によつて破産宣告のあつた日から二年である昭和四一年四月二七日までにしなければならないのに、被控訴人はこれをしなかつたため、被控訴人が訴外協会を相手どつてした否認の訴えは、名古屋地方裁判所で棄却の判決を受けた。

(二) 仮に、本件根抵当権設定登記は抹消されるべきものであるとしても、前述のとおり現在の権利者は訴外協会であるから、控訴会社は右根抵当権設定登記の抹消登記義務者ではない(大判昭和七年八月二九日民集一一巻一七二九頁、大判昭和一三年八月一七日民集一七巻一六〇四頁参照)。

したがつて、控訴会社は、この点について当事者適格を欠く。

本案についての主張

別紙のとおり

(証拠関係)<省略>

理由

一、控訴会社の本案前の主張についての判断。

(一)  被控訴人は、訴外南蛮食品株式会社が、昭和三九年四月二七日、東京地方裁判所で破産宣告を受け、その破産管財人に選任されたとし、控訴会社が破産会社から、原判決添付目録記載の物件について、昭和三八年一一月一五日根抵当権の設定を受けた行為を否認し、みぎ根抵当権の設定登記(名古屋法務局古沢出張所同年一二月一四日受付第三八、四四八号)の抹消登記手続を訴求しているが、成立に争いのない乙第一、二号証によると、みぎ根抵当権は、昭和三九年七月一日代位弁済を原因に訴外協会に移転し、同出張所受付第一九、八〇四号で、みぎ根抵当権設定登記の附記登記をすませていることが認められる。そのうえ、被控訴人は、その後、昭和四一年四月二〇日、控訴会社を相手どつて本訴を提起したものであることは、本件記録中訴状受付印によつて明らかである。

(二)  破産法上の否認登記は、抹消登記と類似しているけれども、抹消登記そのものと異なる点のあることはいなめない。しかし、否認権の行使より以前に否認の客体である行為から生じた根抵当権が移転し、その登記もすませている場合、根抵当権設定行為を否認して、その設定登記および移転の附記登記の否認の登記をするには、破産法八三条により、否認権行使当時の根抵当権者すなわち本件では訴外協会を相手方としなければならないと解するのが相当である(抹消登記についての控訴会社援用の判例は否認登記に準用されるべきである)。

そうすると、控訴会社は、本件否認権行使および否認登記手続を求める相手方となるべき適格を欠き、被控訴人が、本件訴えを控訴会社を相手どつて提起することは、訴えの利益を欠くことになるから、この点を看過し被控訴人の請求を認容した原判決は取り消しを免れない。

二、以上の次第であるから、控訴会社の本案前の主張を採用して、原判決を取り消したうえ、本件訴えを却下することとし、民訴法三八六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 長瀬清澄 古崎慶長)

別紙 準備書面

右当事者間の昭和四二年(ネ)第三三九号事件につき、控訴人は次の通り弁論を準備する。

一、省略

二、本件根抵当権の設定された事情及び控訴人に詐害の認識のなかつたことは以下にのべる通りである。

(1)  控訴人が、破産会社と取引を始めるに至つた経緯は左のとおりである。

昭和三八年一一月七日破産会社の社員がはじめて、控訴人銀行高辻支店(名古屋市昭和区所在)に来行、破産会社東京支店宛三五〇万円の電信送金を依頼した。(乙第三号証参照)、控訴人名古屋支店は、右の如く現金三五〇万円を本店に送金する事実に着目して、被控訴会社は取引が活発で相当有望な取引先となし得る会社であろうと信じ、直ちに外交担当行員に於て「場合によつては資金の貸出にも応ずる」旨を告げ、銀行取引の開始を勧誘し、一方同社の業界に占める地位などについても調査をした。

(2)  その結果、同月一二、三日には、とりあえず控訴人名古屋支店に同会社の当座口を設けると共に根抵当権を設定することを条件として貸出しをも行おうとの話が成立し、翌一四日当座取引を開始、破産会社より五〇万円の当座預金の預入れを受け、さらに翌一五日本件根抵当権設定契約を正式に締結し、その契約書を作成(乙第四号証の一、二)、その登記に必要な委任状、印鑑証明書、権利証の各交付を受けたほか、商業手形七通額面金合計六一五万円(これらの手形は翌三九年二月乃至四月においてすべて不渡となつた)を担保として、差入させ金五〇〇万円を貸出し、これを併行して、前記信用保証協会に対し、保証方を申入れ、昭和三八年一一月一五日「三〇日以内に根抵当権設定登記を了する」ことを条件として同協会の応諾を得、その二、三日後同協会より正式の保証書が発行された(乙第五号証)。

(3)  控訴人は、前記協会との契約条件を履行すべく、昭和三八年一二月五日司法書士鈴木義久方へ一件書類を持参し、至急本件根抵当権設定登記方を依頼し、爾后登記の促進方を要請して来たが、破産会社本店所在地の変更登記が未了であつたゝめ(甲第一、二号証)かろうじて前記条件を満たす同年一二月一四日本件根抵当権設定登記を了したものである。

(4)  しかるところ翌三九年一月一三日破産会社より、控訴人前記高辻支店に対し、「不渡が出る」との電話を受け、同一四日名古屋銀行協会交換部の不渡警告に接し、つゞいて同一六日破産会社は右交換所の銀行取引停止処分を受けるに至つたものである。(乙第六号証)尚破産会社は、昭和三九年一月一四日東京銀行協会交換部において取引停止処分を受けたことが後日判明した。

(5)  控訴人が、破産会社と取引を開始するに当つては、勿論調査を怠つたものではなく、計算書類の提出を求める等の努力を尽したのであるが、当時において控訴人が把握しえたところでは、破産会社は、到底倒産するなどとは考えられなかつたもので、だからこそ右述の如き取引をしたものであり、控訴人は、一般債権者を害することを知らなかつたのは勿論、破産会社の不渡警告に接するまで破産会社が苦境に立つている事実をさえ知らなかつたものである。

以上いずれの点よりするも被控訴人の請求は棄却を免れないと言うべきである。

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